ドキュメンタリー映画の部屋inアジア

アジアのドキュメンタリー映画専門チャンネル「アジアンドキュメンタリーズ」配信作品の感想を綴っていきます。

徘徊 ママリン87歳の夏

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徘徊 ママリン87歳の夏 2015年製作/日本/作品時間77分

 今回紹介する作品は、特集【認知症の愛】【ドキュメンタリー映画で緊急支援】より「徘徊 ママリン87歳の夏」です。

作品概要

 大阪・北浜に、とある母娘が住んでいます。認知症の母(愛称ママリン)と、母を支える娘の章子さん(愛称アッコ)です。認知症の影響で、スイッチが入ると昼夜構わず徘徊を始める母と、それを見守る娘の姿を、近所の誰もが知っています。徘徊をはじめ、想定外の行動に振り回されながらも、どこか軽妙で、ユーモラスな二人を追った、これまでの「認知症」作品の世界観を変える、アジアンドキュメンタリーズの看板作品の一つとも言える作品です。

見どころ

シュールでユーモア溢れる日常

 認知症とその介護というと、とても大変でつらいものだというイメージがあるかもしれません。しかし、本作に登場する二人は、そんな陰鬱な印象はまるで感じさせません。どこかシュールで、思わずクスっと笑ってしまうような、そんなやりとりを重ねる日常を見せてくれます。きっと、これまでの母娘の愛と絆がそうさせるのでしょうが、この作品が、今までの認知症についての暗い世界観を大きく変えたのは間違いありません。

温かい人々の眼差し

 徘徊する母を、あえて閉じ込めることはせず、見守ることに徹してる章子さん。その背景には、二人の存在を温かく受け入れる近所の人々の眼差しがあります。交番のお巡りさんや、よく立ち寄るカフェの主人。介護施設の人から、街角ですれ違う人まで、彼らの寛容な気持ちが、二人の生活をより生き生きとしたものにしているのです。この街のぬくもりは、人との繋がりが希薄な現代社会に、希望を感じさせるものです。

支える娘の、「覚悟」

 この作品で描かれているのは、認知症が「楽なもの」であるということではありません。楽し気な日常を支えている一番の柱は、なんといっても章子さんの「覚悟」に他なりません。自分を育ててくれた母が最期を迎えるまでの数年間、それに向かい合う「覚悟」を持つことは、決して簡単なことではありません。そんな彼女の気持ちの強さを知ると、二人の日常が、また違う角度で見ることができるでしょう。

 

 二人は日々、「死」についてたびたび話します。それは、章子さんが、母を支えることと同時に、母が死ぬことも、覚悟しているからなのでしょう。

 私たちは、誰もが、老いて、いつかは死んでゆきます。そのことを思い返すと、認知症に侵された母も、支える章子さんも、今生きている私たちの、時の流れの延長線上にある姿であることに気づかされます。

 現代社会のテーマの一つは「分断」であると言っていいでしょう。人種、宗教、性別、国家、そして世代。グローバル化が叫ばれた一方で、ありとあらゆる分野で「分断」は進み、他者を受け入れない個人主義が人間社会を包み込もうとしています。

 支えあう二人、そして二人を包み込む「街」の姿は、そんな社会のベクトルを変える、きっかけとなる力を持っています。今を生きる私たち人間が皆、同じ時間の流れに生きていることに気づけば、明日のあなたもきっと、あの「街」の住民に、なれるはずです。

 

 

「徘徊 ママリン87歳の夏」は、アジアンドキュメンタリーズで配信中です↓

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