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戦場病棟 アレッポの狂気【日本初公開】

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戦場病棟 アレッポの狂気 原題:Madness in Aleppo 2019年製作/作品時間83分 撮影地:シリア 製作国:シリア

 今回紹介する作品は、特集【戦う医師たち】より「戦場病棟 アレッポの狂気」です。

作品概要

 シリア北部の都市アレッポでは、内戦が激化したことで、人々は死と隣り合わせの日々を送ることを余儀なくされました。本作では、アレッポで唯一機能していた病院に勤める医師や看護師、そして止まない爆撃の中で懸命に生きる人々の姿を生々しく映し出します。傷ついた人々を救うため、危険を顧みず治療を続ける、「狂気」とも言えるほどの彼らの使命感に、思わず心を揺さぶられるドキュメンタリーです。

注目のポイント

わが子よりも母国、という「狂気」

 アレッポ出身の看護師イブラヒムは、トルコに自分の子どもを置いて、アレッポの病院で勤務を続けていました。彼女は取材にて当時の自分を「狂気の沙汰」だったと振り返ります。しかし、病院での彼女の表情を見ると、それは悲壮感漂う背水の陣というよりは、生き生きとした希望すら感じさせられます。絶望的な状況でも、人々を救い、母国を守ることに、彼女は生きがいを感じていたに違いありません。

「パパに安らかな眠りを」

 病院に運び込まれたある男の子は、医師にそう言いました。彼の父親は、内戦の襲撃に巻き込まれて命を落としたのです。小さな男の子にそこまで言わしめるアレッポの残酷な日常は、叫び声と血の匂いに満ちた朝から始まります。医師のハムザは、アレッポを離れてもなお、当時の強烈な記憶が忘れられないといいます。内戦が、どれだけ多くの人々を傷つけ、医療従事者を疲弊させているか、この作品では、それを十分すぎるほどに描いています。

陥落、それでも夢は続行される

 政府軍に包囲されていたアレッポは、2016年12月に陥落し、人々は退去を余儀なくされました。イブラヒムは、アレッポ陥落を「夢が醒めた」と表現しました。政府軍に抗い、自由を夢見た戦いは、終わりを迎えたということでしょうか。しかし、同じく故郷を追われたハムザは、それでも「夢は続行される」といいます。故郷を思う人々が命を繋いでいく限り、いつか故郷に帰ることができると、命をその手で繋いてきたハムザは、信じているのです。

 

 日本で生きる私たちにとって、「死」はあまり身近なものではないでしょう。一方で、生きる意味を見つけられらない人が多いという話もよく聞きます。

 アレッポの病院では「死」がすぐ傍にありましたが、そこで働く医療スタッフはある意味で希望を持って「生き生き」しているように感じました。

 私たち人間は、「死」を感じることで、自らの「生」を実感するのかもしれません。命の尊さを、失うことで理解できるのではないでしょうか。

 何千年と殺し合いを止めない私たち人間は、きっと愚かです。失って初めて、失ったものの大切さに気付きます。しかし、私たちには、共感し、追体験する力があるはずです。彼らの死と、生きようとする「狂気」を目の当たりにすれば、同じ命を持つ人間として、自らの生きる意味にも、向き合えるはずです。

 

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