ドキュメンタリー映画の部屋inアジア

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ロッキングスカイ【日本初公開】

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ロッキングスカイ 原題:冲天 英題:The Rocking Sky 2015年製作/作品時間98分 撮影地:台湾・中国 製作国:台湾

 今回紹介する作品は、特集【戦争の記憶】より、「ロッキングスカイ」です。

作品概要

 泥沼と呼ばれた日中戦争で、祖国・中華民国の空に殉じた青年たちがいました。侵攻してくる日本軍と勇敢に戦ったパイロットたちは、愛する人を残して、帰ることはありませんでした。本作では、私たち日本人が知らない「中華民国にとっての日中戦争」を残された人の証言や、直筆の手紙、さらには躍動的な音楽とアニメーションなども交え、多彩な表現で描きます。戦争に運命を左右された人々の感情のうねりは、わが国で語り継がれてきたものと、通じる部分もあります。先の大戦とはなんだったのか、私たち日本人こそ、知らなければならない真実が、ここにあります。

注目のポイント

揺れる空、高く舞い上がれ

 原題「冲天」は空高く上ること、英題「The Rocking Sky」は揺れる空という意味になります。その題の通り、本作の見どころの一つは、躍動感溢れるアニメーションと音楽です。死と隣り合わせの空に漂う緊張感や、戦闘シーンの迫力は鳥肌ものです。また、アニメーションは「動」のみならず、「静」の表現にもその力を発揮します。当時、戦場に愛する人を送り出し、祈ることしかできずにいた人々が抱いていた焦燥感や絶望を追体験することができます。従来のドキュメンタリー映画という枠にとらわれない多彩な表現が、戦争の様々な面を描くうえで欠かせない要素となっています。

戦勝国の8月15日

 敗戦国としての終戦は、私たちにとって馴染み深いものですが、中華民国の視点では8月15日は「戦争に勝った」日です。日本の降伏をきいて、市民は戦勝に沸きますが、一方で大切な人を失った人々は、勝ったことを喜ぶことは当然できず、街の空気が耐え難い苦痛であったといいます。本作に登場するパイロットたちも、戦いの中で若くして空に散っていきますが、運命を覚悟しながらも、彼らを愛し、支えた人々がいました。残された人の悲しみは、戦争がいかに虚しいものであるかを物語っています。

もうひとつの「風立ちぬ

 「生きねば。」のキャッチコピーが話題となった、宮崎駿の作品「風立ちぬ」は、零戦の設計者・堀越二郎の半生を描いた作品です。彼は、空に憧れた少年でしたが、戦争という時代の渦に飲まれ、生み出した戦闘機が帰らぬものとなったことに、打ちひしがれます。「風立ちぬ」は、先の大戦の時代を描いていますが、いわゆる戦争映画ではなく、運命に立ち向かい、生きることに全力で向き合った若者の物語です。そして、本作が描いているものは、まさに、もうひとつの「風立ちぬ」というべき、中華民国の若者たちの全力の「生」なのです。

 

 本作のジャケットに描かれているのは、戦闘機が舞う空と、それを見つめる女性の姿です。つまり、この作品は、英雄の記録ではなく、残された者、かつて祈ることしかできなかった者たちの物語なのです。

 歴史を語ることができるのは、生き残った者だけです。愛する人を失い、絶望にくれてもなお、「生きねば。」を噛みしめて今日まで命を繋いできた人がいるからこそ、私たちは、戦争が残酷で、虚しいものであることを知ることができます。

 平和を祈る夏、彼らの声を聴くことは、私たちのつとめではないでしょうか。

 

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