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日本人の忘れもの フィリピンと中国の残留邦人

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日本人の忘れもの フィリピンと中国の残留邦人 2020年製作/作品時間98分 撮影地:日本・フィリピン 製作国:日本

 今回紹介する作品は、特集【戦争の記憶】より、「日本人の忘れもの フィリピンと中国の残留邦人」です。

作品概要

 戦前や戦中にフィリピンや満州に移り住み、終戦後も帰国が叶わなかった、わが国の「残留孤児」たちは、戦争にその人生を大きく左右されてしまいました。現地で差別に苦しんだり、帰国しても日本の社会に溶け込めずにいたりと、日本人として生きることには多くの障壁があります。また、高齢化が進み、失意のまま亡くなる方が後を絶たず、一刻も早い問題解決が求められています。本作では、わが国の残留邦人問題を、当事者と、その問題解決に勤しむ人々の姿を通して丁寧に解説しつつ、国家のあるべき姿とは何か、私たち日本人が忘れてはいけないものは何かを、強く訴えます。

注目のポイント

「国籍」という保護を受けれられない――フィリピンにおける実態

 戦前のフィリピンには、かつて3万人の日本人移民が暮らしており、日本人男性とフィリピン人女性の間に多くの日系二世が生まれました。しかし、日本軍のフィリピン占領に伴い、軍に徴用された父親と離別したため、二世たちは日本人である証明ができず、また占領で生まれた現地の反日感情により、差別を恐れて日本人であることを隠して生きなければなりませんでした。そして、日本国籍も、フィリピン国籍も得られず、また無国籍者の認定も受けられていないため、不法滞在などの罪に問われるおそれがある状態であり、フィリピンから出ることができずにいるのです。

言葉の壁、社会で孤立――中国残留孤児、帰国後の実態

 当時の満州で生まれ、戦争で親や兄弟と離別し、中国残留孤児となった人々は、戦後30年ほどで帰国が叶いましたが、中国での暮らしが長く、日本語や日本の文化・社会に馴染みがなく、孤立して引きこもってしまうケースが多くあったと言います。そんな中国残留邦人の問題に光を当てたのは、彼らによる大規模な集団訴訟でした。残留孤児に対する国の支援義務違反などを問うた裁判は、結果として世論を作り、政治を動かすことに繋がったのです。

「棄民」という大罪

 終戦直後、日本政府は、移民として暮らす人々にできる限り現地に土着するよう指示しました。これは、民を守るべき国が、その義務を放棄する「棄民」政策であると、本作で強く批判しています。また、残留邦人たちの高齢化は予断を許さない状況にあり、「関係者がいなくなるのを待つ」ような対応は、断じて許されるものではないでしょう。問題の「消滅」ではない「解決」を、本作では強く訴えているのです。

 

 本作に登場する、ある中国残留邦人の方の話が、とても印象に残りました。

「例えば、電車に乗っていると、この車両のどこかに、自分の兄弟がいるかもしれない。そんな風に考えてしまう」

 家族を失い、国を失った彼らは、自分の居場所がないことに、どれだけ苦しんだことでしょう。日本に帰っても、祖国とは何か、答えを見つけられずにいるのは、その運命を辿ってみれば、当然であるように思えます。

 私たちが、当たり前のように「居場所」としているわが国は、かつて戦争という国策で、その機能を狂わせ、国民を棄てるという過ちを犯しました。その事実を、私たちは忘れてはいけません。

 そして、私たちの居場所は、これからの社会を生きる私たち自身で、作っていかなければならないのだと、強く感じました。

 

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