ドキュメンタリー映画の部屋inアジア

アジアのドキュメンタリー映画専門チャンネル「アジアンドキュメンタリーズ」配信作品の感想を綴っていきます。

アジア犬肉紀行

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アジア犬肉紀行 2018年製作/中国・韓国・日本/作品時間123分

 今回紹介する作品は、特集【動物の尊厳】より、「アジア犬肉紀行」です。

作品概要

 今の日本ではペットとして親しまれている犬ですが、その犬の肉を食べる習慣が、今も中国や韓国の一部地域を中心に存在します。そして近年、SNSなどの発展により、食用犬を取り巻く問題が明るみに出て、議論を呼ぶようになりました。本作では、残虐な屠殺方法や、劣悪な環境での飼育、ペットとして飼われていた犬を盗む犯罪組織の存在など様々な問題を抱える、犬食の現場に果敢な取材を行い、日本では報道されない犬食文化の闇と、こうした問題に立ち向かうため、活動する人々の姿を力強く発信します。

注目のポイント

残虐な犬食の現場

 食用犬を取り巻く環境は、非常に劣悪で残虐なものです。狭い檻に詰め込まれ、腐った残飯を餌に飼育されます。屠殺場へ運ばれる途中で、怪我や伝染病、飢えなどによって命を落とす犬も多数おり、なぶり殺されたり、生きたまま火あぶりにされたりする犬たちを映す映像は、思わず目を背けたくなるほどの残虐さです。現場には、犬が苦しむことで味が良くなるという迷信を信じているところも多く、「食文化」という言葉に隠された闇は非常に深いものだと感じさせます。

犬を守りたい人々の葛藤

 中国や韓国でも、犬を食べることに反対し、犬食が抱える問題から犬たちを救い出そうと活動する人々が数多く存在します。中国では、食用犬を運ぶトラックを止めて、犬たちを救出して保護している団体があります。また、韓国では「犬肉スープ祭」に反対するデモが行われています。彼らは「犬を助けたい」という信念を持って活動していますが、犬の保護施設の隣に、食用犬の飼育場が存在するなど、根本的な解決ができないことへのもどかしさも感じます。「食文化」であるとの反論に、「かわいそうだから」と感情論で返すことへの葛藤もあるように感じます。

知られざる「日本の犬食」

 本作では、犬食の歴史にも焦点を当て、わが国でも30年ほど前までは、一般家庭で犬が食べられていたと紹介しています。また、動物愛護法を掲げながら犬肉の輸入を認めている、ダブルスタンダードともいえる国の方針を問題として取り上げます。捕鯨問題などの影響で「食文化」とされる犬食についてタブー視されがちな日本で、犬肉撲滅を目指す男性の活動に密着し、犬食の問題が、私たち日本人にとっても他人事ではないことを強調しています。

 

 韓国の、食用犬飼育場の近くで暮らすある男性は、取材に対し、「今の若い人は犬を食べない。犬食はいずれ無くなるだろう」と答えていました。事実、日本における犬食は、時代が進むにつれて衰退してきました。

 本作では一貫して、犬食は「食文化」という見方に疑問を呈しています。文化であるか否かはともかく、私たち人間の行動は、時代の流れに沿って変わっていくため、かつて生活のために必要とされていた犬食も、必要とされなくなってきたと、考えることもできるでしょう。

 私たちは、人間の価値観が変遷した歴史を学ぶことはできますが、その真っただ中で、その時代のうねりを感じることは少ないでしょう。しかし、犬食が過去のものになるのであれば、そこで手を下すのは私たち自身です。そうした意味で、犬食について考え、その運命を見届けることには、非常に価値があるのではないでしょうか。

 

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