ドキュメンタリー映画の部屋inアジア

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オンライン奴隷市場【日本初公開】

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オンライン奴隷市場 原題:Maids For Sale 2019年製作/作品時間51分 撮影地:クウェートギニア共和国 製作国:イギリス

 今回紹介する作品は、特集【現代の奴隷たち】より、「オンライン奴隷市場」です。

作品概要

 人身売買は、歴史上の出来事ではありません。湾岸諸国では、インターネット上のマーケットで、未成年のメイドが財産として出品されているのです。まさに「現代の奴隷」というべきこの実態を明らかにすべく、本作では、BBCアラビア放送の取材班が、この「オンライン奴隷市場」が活発なクウェートにて潜入取材を敢行。違法行為でありながら、人身売買の自覚がないまま行われている取引の実情や、市場を提供する企業が抱える問題など、今も終わらない人身売買の現場の、衝撃の事実を明らかにします。

注目のポイント

あまりに手軽な「オンライン奴隷市場」
 本作の取材班は、メイドを購入したい夫婦を装い、出品者に接触を試みます。ショッピングアプリやSNSで「商品」としてメイドたちの写真が並ぶ画面は、非常に衝撃的です。そして、電話一本で出品者とメイドの少女に会うことができます。メイドたちは、自分が出品されていることは知りません。取引の会話も、メイドたちには理解できないアラビア語で行われます。出品者が「買い手はいくらでもいる」と自信満々に言い放つ姿は、この「人身売買」が恐ろしく手軽であり、一般市民の間で横行している実態を示しています。 

「違法」な人権侵害の横行

 「メイドが携帯電話を持つなんて、この世の終わりだわ」――。市民の二人に一人がメイドを雇っているクウェートでは、こんな発言がテレビ番組で放送されています。クウェートでは近年、メイドの権利を拡大する法律を成立させましたが、違法行為とされても、未成年のメイドを年齢を偽って働かせたり、パスポートを取り上げて逃げないようにしたりと、その実情は改善に至っていません。また、メイドが逃げ出すことは法律違反であり、過酷な環境から脱したくても、当局に逃げ込むと刑務所行きとなってしまう恐れがあり、人権を奪われたメイドたちの絶望感は、果てしないものです。

少女のふるさとを探せ

 メイドたちの人権を守る活動を行う団体は、取材班とともに、一人の少女のメイドを見つけます。彼女を救い出すべく調査を始め、出生地であるギニアでは、同じ苗字という縁で紹介されたギニアの警察官の男性と出会います。彼は「父親として許せない」と、休みを取ってまで彼女のふるさと探しに奔走します。また、ギニアでは、かつてメイドとしてひどい扱いを受けた少女たちがいました。「地獄だった」とクウェートでの日々を振り返る「元・メイド」の少女たちの表情には、刻まれてしまった傷の深さが感じられます。現在進行形で傷つけられている彼女は、果たして、無事ふるさとに帰ることが出来るのでしょうか。

 

 私たちの価値観が流動的であることは、歴史が物語っています。

 人身売買が横行している一番の原因は、メイドを雇っている市民の常識にあるでしょう。「メイドは所有するもの」という社会通念、それが法律よりも根強く染みついている現状が、この悲劇に幕を引くことを阻害しているのです。 

 また、本作で繰り返し触れられている、市場を提供する企業の責任もあります。GoogleAppleFacebookといったITメジャーがリリースするプラットフォームが、人身売買の温床になっていることは、紛れもない事実です。

 世界中がオンラインで繋がる現代において、人身売買を根絶させるには、世界全体の価値観を変えていかなければなりません。身近なアプリの画面に映し出された、少女たちの写真を見て、私たちも「世界全体の価値観」その輪の一部であることを、強く感じました。

 

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