ドキュメンタリー映画の部屋inアジア

アジアのドキュメンタリー映画専門チャンネル「アジアンドキュメンタリーズ」配信作品の感想を綴っていきます。

ケージで暮らす人々

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ケージで暮らす人々 2018年製作/香港/作品時間25分

 今回紹介する作品は、特集【変わりゆく香港】より、「ケージで暮らす人々」です。

作品概要

 市場原理により、金持ちが異様なほど裕福になった街、香港。所狭しと並び立つアパートの価格は高騰し、深刻な格差社会で苦しむ貧困層は、住む場所すらままならないのが現状です。本作品では、ソーシャルワーカーのある女性が、ケージのような狭い場所で極限の生活を送っている人をはじめ、貧困層の生の声を伝えるべく奔走する姿を追います。一国二制度の名のもと、民主社会を謳う香港の、民主社会とはかけ離れた現状を、「住宅」の在り方を通して浮き彫りにするドキュメンタリーです。

見どころ

「住宅」として可視化された格差

 タイトルの「ケージで暮らす」とは、決して誇張した表現ではありません。超格差社会の香港では、狭い部屋の中に重ねたケージの中で日々を送る貧困層が、20万人もいるのです。身動きをとることも難しいような生活環境は、とても文化的な生活とは言えません。尿の臭いが漂う階段の先で、窓の無い部屋で暑さに耐えながら暮らす女性の姿は、とても印象的です。

死ぬことですら金がかかる

 香港の地価高騰により潤っている業種の一つとして、寺院があります。火葬が一般的な香港では、景色の良い納骨堂には、莫大な金額がかかるのです。死に場所においても、目に見える「格差」が付きまとう現状は、市場原理の究極の姿といえるでしょう。

貧困をなくすために

 ソーシャルワーカーの女性は、定期的に貧困地域を訪ねて周っています。地道な活動を続ける彼女の姿からは、「香港の貧困をなくす」という強い思いが伝わってきます。そして彼女は、上流階級の人々が、最下層の生活に気づいてくれるように願っているのです。

 

 本作に登場する貧困層の人々は、その社会構造に飲み込まれ、とても無力な存在として描かれています。格差は世代を超えてより広がり、貧困層に生まれた子供たちは、生まれながらにして、明日の寝床や食事に、悩まされることになります。

 貧困、格差の問題を解決するには、上流階級の人間が手を差し伸べるほかないのです。富める者がますます豊かになり、貧しい者の苦しみから目を背ければ、負の連鎖はずっと続いてゆきます。この社会構造は、行き詰った人々を戦いに駆り立て、内戦や虐殺といった悲劇にすら繋がりかねません。

 市場原理の成れの果てに、愚かな悲劇を生まないために、資本主義社会に生きる私たちは、ケージで暮らす人々のことを、忘れてはいけません。

 

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