ドキュメンタリー映画の部屋inアジア

アジアのドキュメンタリー映画専門チャンネル「アジアンドキュメンタリーズ」配信作品の感想を綴っていきます。

埋立地の漁民【日本初公開】

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埋立地の漁民 原題:Silent Blues of the Ocean 2016年製作/作品時間27分 撮影地:インドネシア 製作国:インドネシア

 今回紹介する作品は、特集【インドネシア 発展の陰で】より「埋立地の漁民」です。

作品概要

 インドネシア東部の中心都市であるマカッサルでは、港湾開発の一環として行われている埋め立て工事により、漁業を営んでいる人々が追いつめられています。本作は、劣悪な環境と貧困に苦しむ人々の実態を赤裸々に映し出します。原題「Silent Blues of the Ocean」の通り、解説などで多くを語らず、27分の映像表現で、経済優先で進む開発に疑問符を投げかけるドキュメンタリーです。

注目のポイント

漁民たちが「漁る」もの

 マカッサルの漁民たちの稼ぎは、流れ着くゴミの分別に頼っています。流れ着くゴミは、分別はおろか、なんの処理もされずに捨てられているのです。彼らはそれを分別して、資源として安値で売ることで生活していますが、借金の取り立てを待つ日々は、非常に厳しいものです。かつて魚を捕るために使っていた船を、ゴミを運ぶために使う光景は、歪められた彼らの生活を象徴しているように思えます。

どぶ川で遊ぶ子どもたち

 劣悪な衛生環境での生活は、子どもたちにも直撃してきます。真っ黒な水に白い泡が浮いたどぶ川で、水遊びをする子どもたちの姿は非常に衝撃的です。埋め立てによって頻発する浸水で、家が水浸しになったり、寝床を失ったりする人も少なくありません。まさに、インドネシアの発展の陰に、このような人々の生活があるのです。

追いつめられる人々

 貧困に耐えかねて国外に出稼ぎに行こうとする者もいますが、家族と離れることはリスクでもあります。出稼ぎに行っている間に、子どもが死ぬことも考えられます。戦争や虐殺といった、死と隣り合わせの場所ではありませんが、彼らは日々の生活の中で、確実に追い詰められている実感があるでしょう。仕事の合間に、コーヒーを飲んで笑顔で語り合う彼らの姿を見ると、彼らの明日が、少しでも良いものになるように、祈らずにはいられません。

 

 マカッサルでは、当局が日本企業と共に都市開発計画を進めています。

 開発すること自体が「悪」であるとは言えませんし、私たちの生活も、都市開発の恩恵を受けたものであることは言うまでもありません。

 しかし、都市開発が、開発地で暮らす人々を置き去りにする懸念があります。本作で取り上げられるような、地元産業の破壊や生活環境の破壊は、弱者からの搾取です。

 産業に国境のない時代を生きる私たちは、こうした動きを注視する必要があります。知らない間に、このような搾取の片棒を担いでしまうことになりかねないからです。

 そのためにも、まずは知ることが重要です。ドキュメンタリーを観ることは、この時代を生きる、責任ある一人の人間として、欠かせない視点を得ることに繋がるのです。

 

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