ドキュメンタリー映画の部屋inアジア

アジアのドキュメンタリー映画専門チャンネル「アジアンドキュメンタリーズ」配信作品の感想を綴っていきます。

街角の盗電師

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街角の盗電師 2013年制作/インド/作品時間80分

 今回紹介する作品は、特集【魅惑のインド大特集】【視聴率ベスト20】【危険な仕事】より「街角の盗電師」です。

作品概要

 インドの工業都市・カーンプルでは、電力不足が深刻です。そんな街では、違法配線のスペシャリストである「盗電師」と、電力公社との攻防が繰り広げられています。誰もが電気を使えるようにと、危険な作業を続ける盗電師が活躍する中、違法配線を根絶に着手したのは、電力公社に新しく赴任した敏腕の女性官僚です。そして、度重なる停電に民衆の不満が募る中、カーンプルでは選挙を迎えます。インドの深刻な「電力戦争」の様相を、様々な視点で追った、アジアンドキュメンタリーズ代表作の一つです。

注目のポイント

盗電師と、混沌とした街

 カーンプルの街は混沌としています。活気あふれる人々が縦横無尽に行き交い、彼らの頭上には、盗電師によって張り巡らされた配線が迷路のように張り巡らされています。この混沌とした雰囲気を、存分に感じられることも、この作品の魅力の一つです。天才盗電師の両手は、火傷の跡に加え、一本の指が折れ曲がったままです。それでも、街の人々のために、盗電師として活躍する彼の信念は、強く真っすぐなのでしょう。

改革の先に見据えるもの

 電力公社の改革に乗り出した女性官僚には、カーンプルの電力事情を改善するためのビジョンがありました。盗電による損失が改善されなければ、電力供給のための設備を強化することはできません。そのため、盗電の取り締まりを徹底し、公社の勤務員の意識も変えようと奔走します。しかし、停電や故障が相次ぐと、民衆からは失意の眼差しを向けられます。彼女も、葛藤を抱えながらも、強い信念で難題に立ち向かっているのです。

 

 電気を盗むことは、いけないことなのでしょうか。

 カーンプルの「電力戦争」は、インド社会が抱える問題の象徴です。格差や貧困の解消、インフラ設備の充実が、根本的な解決には不可欠です。人々に電気を届ける盗電師も、公社の改革を進める官僚も、民衆の生活を思って活動していますが、彼らの信念は対立し、答えが出ないままでいます。

 生きることが困難になるとき、私たちの「善、悪」という概念は、いとも簡単に崩れてしまいます。もし、私たちが同じ立場に立ったとき、なにを「善」として行動することができるでしょうか。

 この作品は、そんな問題を、私たちに問いかけてきます。彼らの姿を見て、あなたも考えてみてください。

 

「街角の盗電師」は、アジアンドキュメンタリーズで配信中です↓

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