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爆弾処理兵 極限の記録(ノーカット完全版)

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爆弾処理兵 極限の記録(ノーカット完全版) 原題:The Deminer 2017年製作/イラク/作品時間83分

 今回紹介する作品は、特集【悪魔の兵器】より、「爆弾処理兵 極限の記録(ノーカット完全版)」です。

作品概要

 イラク北部・モスルでは、武装勢力が仕掛けた数多くの地雷や爆弾が、市民の暮らしを脅かしていました。本作は、爆弾処理兵として類稀な能力を発揮し、年間に600個以上の地雷や爆弾の処理を行った、ある男の戦いを追ったドキュメンタリーです。現地で記録されていた50時間以上のビデオ映像を編み直し、爆発で片脚を失ってもなお、爆弾に挑み続けた男の生き様を、彼の長男の語りと共に、映し出した力作です。

注目のポイント

緊迫感溢れる、リアルタイムの「爆弾処理」の映像

 本作の映像は、爆弾処理兵として活躍する男・ファーケルを追って、現地で撮影されたものです。隠された爆弾(それも、不発弾ではなく、戦闘のため直近に仕掛けられたものがほとんどなのです)を探し出し、ナイフとペンチで、一つずつ手作業で配線を切断する様子は、見ているだけで思わずため息が出てしまいます。また、爆弾は非常に巧妙に仕掛けられており、建物の扉を開けると起爆するものや、携帯電話を使い遠隔で起爆させる爆弾を積んだ車など、様々です。爆弾の処理というと、地雷がイメージされがちですが、この映像は、戦場のリアルな姿を映し出す、貴重な資料でもあります。

”命知らずのファーケル”と、彼を支える家族

 どんな危険な現場でも、臆することなく足を踏み入れるファーケルは、”命知らずのファーケル”と敬意をこめて呼ばれ、イラクに滞在するアメリカ軍からも一目置かれる存在でした。そんな彼の一番の挫折は、爆弾により片脚を失ったことでした。これまで、重傷を負ったときですら「明日軍務に復帰する」と言い放つような、頑強な精神力の持ち主でしたが、杖なしで歩けない体となり、軍からも仕事をするのは絶望的と判断され、自身の在り方に葛藤することになります。そんな時、彼を支えたのは、家族でした。そして彼は間もなく、義足を装着し、再び軍服に袖を通します。

使命感に燃える「兵士の生き様」

 「地雷で亡くなる子ども達は、自分の子どもと同然だ」と、彼は言いました。軍人として、罪なき人が爆弾で被害を受けることを、彼は心から憎んでいました。愛する家族と離れ、戦地で骨を埋めることになっても、イラクの人々を守り、平和を守ろうとする彼の姿は、あまりにも尊いものです。どれだけ爆弾の数が多くとも、何度爆発に巻き込まれようとも、彼の心が折れることはありません。まさに、人生を懸けて使命を全うせんとする「兵士の生き様」に、観る者の心は揺さぶられます。

 

 「愛国心」というと、極右的な思想のように感じる人もいるかもしれません。

 本作の主人公、”命知らずのファーケル”は、生まれ育ったイラクを愛し、イラクの未来と子どもたちの命を、何よりも大切に思っていました。彼はまさに「愛国の兵士」であり、銃や爆弾を憎む、「平和の戦士」でもありました。彼を、極右や軍国主義と結びつけることには、あまりに無理があります。

 現代の日本では、社会問題が議論されると、「日本はダメな国だ」と自虐的かつ、他責思考で見る傾向があるように感じます。本来、「国」とは国民そのものであり、私たち国民が、自分の国を大切に思い、行動しなければならないのではないでしょうか。

 ファーケルが戦っていた場所に比べると、私たちの戦場は生ぬるいものかもしれませんが、挑戦しなければならない問題は、数え消えれないほど多くあります。

 彼の生き様を見て、使命感に「覚醒」したと言うのは大げさですが、そんなことを考えて、明日から生きてみようと、思った次第です。

 

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