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プラセボ あるインドの名門医学生の心理

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プラセボ あるインドの名門医学生の心理 原題:PLACEBO 2014年製作/作品時間94分 撮影地:インド 製作国:インド・フィンランド

 今回紹介する作品は、特集【追いつめられる日々】より、「プラセボ あるインドの名門医学生の心理」です。

作品概要

 合格率わずか0.1%以下の、インドの超名門医科大学・全インド医科大学(AIIMS)では、ここ数年で在学生の自殺が頻発しています。競争に勝利し、エリート街道をひた走るはずの学生たちに、一体何が起きているのでしょうか。本作では、学生寮で暮らす4人の学生に2年間の密着取材を敢行し、彼らの目線で、彼らの人生に潜む苦悩に迫ります。知られざるインドの「エリート教育」の現場を、赤裸々に描き切った傑作です。

注目のポイント

 

インドの超エリートたちの素顔

 インド13億人の頂点に位置する学生たちは、一体どのような人物なのでしょうか。本作に登場する医学生たちは、一見すると、みな人間味あふれる、「普通の若者」のように思えます。くだらない冗談で笑い、踊りを踊ったり、女の子にモテることを夢見たりする姿は、いかにも「学生」といった様子です。また、研修などの体験を通して、医師という仕事にやりがいを感じ、そのことを語る姿は、とても情熱的です。どの表情も、まるで同じ場所にいるかのような、感情を肌で感じ取れる、臨場感溢れる映像で、描かれています。

頻発する自殺、その背景にあるものとは

 ここ数年、AIIMSでは、毎年のように学生や研修医が自殺をしています。ある学生は、「人間の精神の最高到達点は、自殺」といい、それは、種の生存と繁栄という「本能」を、「知性」によって超越するからだと説いていました。なぜ、自殺が頻発するようになってしまったのでしょうか。学業の行き詰まりや、周囲からの期待に応えるストレスによるものでしょうか。それともその「知性」の高さゆえの悲劇なんてことが、起こりうるのでしょうか。

顔のない学生は、名乗った

 AIIMSでは、長年、いじめが問題となっていました。いじめ問題を重く見た当局は、学生間の交流を制限することにしました。しかし、この施策は裏目に出ます。本作の取材期間中、新たに自殺した学生が現れました。ところが、「顔のない学生」と表現された彼を、知る人はいなかったというのです。彼を死に追いやった原因が明かされることはありませんが、ある学生が、ヒントを語っています。「厄介なのは、孤立だ」と。彼は、自らの命を絶つことで、初めて「名乗る」ことに成功したのです。

 

 本作の表題「プラセボ」は、「偽薬」の意味で広く使われていますが、その語源はラテン語で「喜ばせましょう」という意味で、古くは、カトリックの死者のための祈りの中で使われたといいます。しかし、この作品が、命を落とした学生たちへの「祈り」であるとは、言い難いでしょう。

 冒頭で、学園祭のシーンが描かれます。熱狂的で、若い学生たちの「生」のエネルギーに満ちているように感じます。しかし、この学園祭が表現しているものは、まったく別のメッセージです。あえてすべては語りませんが、ここに、私たち人間が持つ「偽薬」の正体が、描かれているのです。

 

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