ドキュメンタリー映画の部屋inアジア

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ショック・ウェーブ

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ショック・ウェーブ 原題:Shock Wave 2020年製作/作品時間45分 撮影地:レバノン 製作国:オーストラリア

 今回紹介する作品は、特集【爆心地 レバノン】より「ショック・ウェーブ」です。

作品概要

  2020年8月4日、レバノンの首都ベイルートの港湾地区で、今世紀最大規模の大爆発事故が発生しました。爆発の主な原因は、政府によって没収され過去6年間港に放置されていた、約2750トンの硝酸アンモニウムへの引火とみられています。本作は、爆発の瞬間を捉えた様々な映像と、心身に深い傷を負った被害者への取材を通して、この爆発事故が象徴する、レバノンという国の悲劇を描いたドキュメンタリーです。

注目のポイント

人々の日常を破壊した、爆発の瞬間

 爆発は、何の前触れもなくベイルートの人々を襲いました。本作で紹介される映像の数々は、私たちが報道で見るような俯瞰のものではなく、スマートフォンなどで撮影された生々しいものばかりです。破壊されつくした街の姿は、衝撃の威力がいかに凄まじいものであったかを物語っています。

尊い命を失った人々

 爆発は、ベイルートの207人の尊い命を奪い、6,500人以上の負傷者を出しました。大切な人を失った彼らの言葉は、悲しみと怒りで震えていました。街が復興を果たしても、彼らが失ったものは二度と戻ってきません。一生、癒えることのない傷を負った彼らが、辛い記憶をカメラの前で語るのは、一体なぜでしょうか。

人災、終わらない悲劇

 この事故を招いた原因は、政府による危険物の杜撰な管理によるとされています。この爆発事故以前にも、レバノンでは反政府デモが相次いでいましたが、以降、政府への批判はさらに高まり、8月10日にはディアブ首相が内閣総辞職を発表しました。この事故は、政治が招いた人災であり、政治腐敗による悲劇は、レバノン国民を今もなお苦しめているのです。

 

 政治の腐敗とは、第一に当事者意識が欠如することに他ならないと思います。私たち現代人の生活は、このような事故を起こしうる危険物を活用することで成り立っているものです。政治が、人々の安全を守る第一人者としての意識を失えば、技術の産物は、時に我々に牙を剝くのです。

 例えば我が国でも、東日本大震災による福島第一原発の事故は、後に様々な「人災」的な要素が指摘されてきました。

 レバノンの悲劇は、決して他人事ではありません。政治腐敗は、国が人間の集まりである以上、残念ながらどの国でも起こりうることなのです。愛する息子を失った夫婦が、カメラの前で語ったのは、息子の死を、せめて、今生きている人々に役立ててもらいたい一心だったのではないかと思います。

 政治を担うのは政治家のみならず、社会に生きる私たちの役割でもあります。私たち一人ひとりが、責任を持って政治に参加しなければ、かけがえのない命を、守ることはできないのではないでしょうか。

 

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